私は目の前に座るこの男が嫌いだ。いつもいつも申し訳なさそうに座って、私たちの視線を一身に受け止めて、言い訳もご機嫌取りの一つさえも口にしない、この男が。父様が友人だと紹介したものの、こんな男のどこを気に入って友としているのか、私には到底理解が及ばなかった。  男が留守にしているあいだに、妹に尋ねた。この男をどう思うか。兄にも尋ねた。好意的に思える部分があるのか。姉にも、弟にも尋ねた。“景色”にも尋ねた。  答えはひとつだった。みな私と同じ感想を持っていた。けれども私たちはここから動くことができないから、黙って、嫌悪の色を示して見詰めることしかできることがない。私たちの世界に彼は必要ないモノだが、彼がいなくては私たちはもうすでに死んでいたかもしれないと兄は言った。姉は男が自身の子を持ったところを見たことが無いと言った。私は他所で設けているのではないかと言ったが、そうでもないらしかった。  であれば。あれは何だ? 景色は知らぬ方がいいとうたった。

「あなたは何?」  戻ってきた男に私は問うた。男は何も答えない。いつもの顔で目を逸らすしかしない。これもいつものことである。妹や弟は何も言わず、兄や姉もそれは同じだった。私がその態度に腹を立てることを男も知っている。そうすると男は、部屋の中に一脚しかない椅子を私に向けて座り、じっと何も言わずにこちらを見て微笑むのだ。 「そういえば、君はここに来たのが一番最後だったね」  鏡のような薄青の瞳が見つめる。 「その鈴のような声で彼らに問い質せばいいだろう。……もっとも、易々と教えてくれるかは別なのだけど」

知らぬ方がいいと言った景色の言葉は、確かに正しかった。私は兄に姉に妹に弟に詰問したことを悔いた。そしてそれはこの先永劫に続くものと知った。それを男にも怨み言のように漏らした。男は見たことも聞いたこともない顔と声で笑った。  数日後に男は新しいきょうだいだと言ってそれを連れてきた。部屋にいた皆は同じ表情をしていた。私もそれが解るようになってしまった。 「どうか、宜しくお願い致します。兄さま、姉さま」  男のことを何も知らない新しい“贋作”は、そう言って、頭を下げる。私は碌な返事の思い浮かばぬまま、目を逸らした。